アンクル

2011/10/19

「メネフネのようなアンクルに会いにいかない?」
ハワイ島に着いたとき、けいこちゃんから言われた。
けいこちゃんからそう言われ、断る理由は、ひとつもない。
でも、そのとき、わたしは、アンクルに会いにいく理由をあまり考えていなかった。
ヒロから南に下って行ったところにアンクルはいた。
伝説になっているメネフネは、
ポリネシアから来たいまのハワイアンに追われた人たちなのかもしれない。
そう思ってしまうほど、アンクルは細く、小柄だった。
日本のおじいちゃんのようだ。
わたしの目には、ハワイアンとちがう人種のように映った。
「メネフネだ」と、思った。
アンクルには不思議な力がある。
アンクルに会って、わたしはそのことを理解した。
その場所は、海からすぐのところに水が湧いていた。
澄んだ水があふれるように湧いている。
水面はカガミのようにひかり、雲が映っていた。
めったなことでは人がはいってこない場所。
わたしたちは、そのわき水でクレンジングをすることになった。
クレンジングという言葉は不適切かもしれない。
いま、いい言葉が浮ばず、
また、何か言われた言葉があったかもしれないけれど、思い出せない。
だから、クレンジングと書いている。
アンクルに言われるまま、わたしたちは池にはいった。
わき水はとても冷たかった。
ぎりぎり耐えられるくらい。でも、できるならはいっていたくない。そんな水温だ。
その冷たい水にアンクルもいっしょにはいった。
そして、クレンジングの仕方を教えてくれた。
その場にいた5人で手をつなぎ、水につかった。
すぐにもぐって頭まで水につかる。
それから仰向けになるように顔をあげる。
水のなかで仰向けになれば、当然、水は鼻にはいってくる。
冷たさと、鼻の痛さと、呼吸ができない苦しさ。すぐに水面から顔を出す。
新鮮な空気が肺に流れこんでくる。
そんなことを、わたしたちは、3回くりかえした。
もぐる前、アンクルから言われたことがあった。
「不要なものを手放しなさい。汚れてしまった世界を放しなさい」。
そんなことを言っていた気がする。
気がするというのは、もっとたくさんの言葉をささやいてくれたのに
わたしのなかには、その言葉しか残っていないのだ。
それも、ずいぶんと曖昧に。
3回やり終わると、みんな、池から飛びたした。
口々に、うわ、とか、ふぅと言っている。
わたしは、心臓がすこしどきどきした。
草の陰で着替えて、池のところにもどったとき
体とこころがすーっとしていることに気づいた。
あたらしいスタートラインに立った気持ち。
体のなかを風が通りぬけ、その風で体がふわりと浮くような感覚があった。
アンクルに「不要なものを手放しなさい」と言われたとき
わたしは、汚れた大地がきれいになっていくことを思った。
龍のような形の大地が、水で清められる場面をくり返し描いた。
アンクルは、その思いを見守ってくれた。
しばらくの間、わたしたちはその場にいた。
池で遊びはじめたどもたちを見たり、海のほうへふらっと歩いて行ったり。
ハワイには天国のようなところがいくつもあるけれど
「ここも天国みたい」と思った。
冷えた体は、いつのまにかぽかぽかになっていた。
別れ際、それぞれがアンクルとハグをして、
お礼の言葉を言とともに、感じたことをつたえた。
アンクルも、わたしたちに必要な言葉をささやいてくれた。
わたしがそのとき聞いた言葉。
それは・・・・・。
「あなたは、とてもいい仕事をしている。
これからもその仕事をつづけなさい」。
アンクルは、わたしたちが、何をやっているかを知らない。
ふらっと訪ねて行き、「やあ、よくきたね」と迎えてくれ、
そして「ああ、それだったら」ということでクレンジングをしてくた。
「あなたはいい仕事をしている。
これからもその仕事をつづけなさい」。
その言葉は、そのときから、わたしのなかでぐるぐる回りつづけている。

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